死すべき者たち
1.子供喰らい | 2.灼熱の地 | 3.力の場 |
4.生命、そして死 | 5.不浄なる吐息 | 6.ラストナレーション |
−−子供喰らい−−
詳細 | |
勝利条件: | ヴィトロスを攻略する |
敗北条件: | ゴールドス・ハーフデッドを失う |
マップの難易度: | 「上級」ゲーム |
持ち越し: | ゴールドスおよび彼の呪文、経験、技能は、すべて次のマップに持ち越される。自軍の勇者の最大レベルは 12。 |
わたしを杭にしばりつけながら、彼らはわたしを”畜生”だの”子供喰らい”だのとなじった。
”子供喰らい”という罵声は興味深い。なにしろ今日にいたるまで、わたしは人の肉も血も味わったことがないのだから。わたしの体の半分は、噛むと肉汁があふれる牛肉や焚き火であぶった鮭といったような、普通の人間と同じ食べ物を今でも必要とするし、そういったものに食欲をそそられもする。だが、残る半分は、すなわちアンデッドの体は、いっさい餓えを感じない、虚ろな存在でしかない。
だが、真実がどうであれ、ヴィトロスの者たちの殺意は変わるまい。
玉子を盗もうとして、わたしはニワトリ小屋に近づきすぎてしまった。<審判>以来、わたしは荒野で獣のような生活を送ってきた。わたしは生きている虫やネズミを捕まえて食った。たまにコマドリの卵を見つけると、わたしは喜んで中身をすすった。わたしは夜の闇に身を隠し、物音を聞きつけると、それがどんなに些細な音でも、すぐさま寝床にしている穴に逃げ込んだ。
あの夜のわたしは、空腹のあまり注意力が散漫になっていたに違いない。手遅れになるまで誰かが近づいてくることに気づかないとは。ニワトリ小屋に入り込み、長い爪を使って卵に穴をあけたところで、わたしはようやく物音に気づいた。わたしは二羽のニワトリをつかみ、騒がないように首を絞めながら小屋の外に出た。だが、すでに小屋はすっかり囲まれていた。
農夫たちは十人以上いただろうか。全員が武器がわりの農具を握りしめている。わたしは逃げようとした。次の瞬間、ビッチフォークが右肩に突き刺さった。あっという間に地面に引きずり倒され、棒で殴られ、足で蹴られる。だが、何よりも最悪だったのは、握りしめていたニワトリを奪われてしまったことだった。
「この畜生め!」
手足を縛られたわたしは、荷車に引きずられて数マイル離れたヴィトロスの町まで連れていかれた。ヴィトロスには、大アーカン国の東方拡大政策の一環として、小規模ながら守備隊が置かれていた。
案の定、守備隊の兵士たちはすぐにわたしを杭に縛りつけ、足元に薪の束を積み上げた。このときになってようやくわたしは恐怖に震え始めた。
炎!わたしが炎を恐れるのには理由がある。炎こそわたしが半アンデッドになったそもそもの原因なのだ。今でもわたしは体が焼けるあの激痛をはっきりとおぼえている。魂までも喰らい尽くす、あの筆舌に尽くしがたい苦しみ!
恐怖がわたしに力を与えた。守備隊の隊長が松明を持って群衆の前に進み出るの見て、何とかいましめを解こうと必死に暴れる。
「女王エミリア・ナイトヘヴンと大アーカン国の名において、二度と蘇られないような完璧なる死を与えてくれるぞ、この化け物め!」大仰な口調で守備隊長は宣言した。
「わたしは無実だ!」たまらずわたしは叫んだ。「わたしは二羽のニワトリを殺したにすぎない!」
「こいつが俺の息子を食っちまったんだ!」誰かが悲痛な声で叫んだ。どうやら誰かの子供が行方不明になっていて、わたしはその犯人だと思われているらしい。なんと間の悪いことか!
「焼き殺せ!」他の誰かがわめいた。
隊長が前に進み出て、薪に松明を近づけた。
「貴様のような輩が無実のわけがない」
薪がくすぶり、最初の一筋の煙がわたしの鼻腔に届いたとき、ようやく「死んでいる」右手のいましめがゆるんだ。わたしは急いで縄をほどいた。呪文を唱えるは数年ぶりだった。だが、かつてのわたしは魔術を頼りにして生きていたのだ。わたしは両手を頭上に掲げ、呪文をつぶやいた。呪文はすらすらと口をついて出てきた。人間というのは、一度おぼえたことはけっして忘れないものらしい。
私は燃える薪を飛び越え、逃走した。その場に居合わせた者たちの筋肉は、呪文はよって生じたこの世ならざる冷気によってかじかみ、わたしを追いかけるどころではなかった。<審判>のときと同じように、我が主が死んだときと同じように、私はひたすら逃げた...
ヴィトロスでの経験は、文明がわたしのとって<死>そのものに他ならず、近づいてはならないものであることを、あらためて教えてくれた。わたしは森の奥深くに逃げ込んだ。何か考えがあったわけではない。とにかくできる限り炎から遠ざかりたかったのだ。どれだけの時間、どれだけの距離を走ったのか、それさえもわからない。何も考えないのが一番だ。それがこの数年の間にわたしが学んだことだった。わたしは獣だ。ただの獣でありつづける限り、生き延びるのはそれほど難しいことではない。
わたしはほとんどの時間を木々の陰に身を隠して過ごした。幾日か過ぎたある夜、わたしは偶然にも四角い石がいくつも立ち並ぶ一画を見つけた。墓地だ!
空は晴れわたり、月は白銀に輝いている。わたしは十数個あった墓石の周囲を歩き回り、表面に刻まれた名前と没年を声に出して読んでみた。葬られている者たちの多くは、家族やその親類で、没年は数年しか離れていなかった。父親も母親も子供たちも、たてつづけに命を落としたというわけか。苦痛と死。それがこの新世界がわたしたちを歓迎するために用意したものだ。
わたしは草の上に腰をおろし、顔の「生きている」側を墓石のひんやりとした表面に押し当てた。子供時代の記憶をさかのぼると、地下室の思い出にたどりつく。地面からただよってくるムスクのような匂い。静けさに満ちた暗闇。血をすするために子供だったわたしを閉じ込めていたヴァンパイア。
「昔に戻ったようだ」
どうしてだろう?他にもさまざまな場所があるだろうに、どうしてわたしはここに来たのだ?運命か?いや、わたしは運命なぞ信じない。未来は自分で作るものだ。だが、この宇宙を統べる<黄金律>には何か考えがあるのだろう。
立っていると、体に力がみなぎってくるのが感じられた。力の源はわたしの内なる怒りだった。わたしはヴィトロスの者たちに対して怒りを感じた。半分アンデッドだからというだけの理由でわたしを殺そうとしたすべての者たちに怒りを感じた。小屋でニワトリを飼うようにわたしを地下室に何年も閉じ込めていたヴァンパイアに対してさえ、わたしは怒りを感じた。地面に膝をつき、わたしは湿った土に爪をつき立てた。
土の下で腐りかけた死体が眠っているのが感じられる。わたしは身震いした。魔力が腕を流れ、指を通して冷たい地面に流れ込んでいく。その瞬間、わたしは悟った。この数年、あらゆる恐怖に耐えながらわたしが生き延びてきたのは、この瞬間のためだと。宇宙を統べる<黄金律>は、どうやらわたしに何かをさせたいらしい。
この夜、三日月の下で、わたしは本当の意味で生まれ変わった。
わたしはゴールドス。生と死の狭間にいる者。
わたしには「生きたい」という強い意志がある。そうでなくてどうして吸血鬼の地下室ですごした子供時代を生き延びられただろう?ここ数年の孤独な生活に耐えられたのも、生きたいという思いが強かったからこそだ。<審判>は国々を滅ぼし、軍勢を滅ぼし、ネクロマンサー教団のような太古からつづく組織さえも滅ぼした。だが、わたしは今もこうして生きている。
かつて、我が主カリバールは、わたしの中には強い魔力が眠っていて、それを無駄にするわけにはいかないのだと語った。だが、わたしを虜囚にしていたヴァンパイアのロスカンは、カリバール様が代価として子供十人を差し出すと言っても、わたしを手放そうとしなかった。ロスカンはネクロマンサー教団の一員だったので、カリバール様といえども力に訴えることはできなかった。そこで、交渉によってわたしを手放させることに失敗したカリバール様は、策略をめぐらしてアンデッド討伐軍を組織させ、ロスカンの棲家を暴き出した。かくしてロスカンの命運はつきた。
カリバール様はわたしの命の恩人だ。だが、結局のところ、恩に報いることはできなかった。<審判>が起きた直後、わたしはネクロマンサー教団の秘密の図書館に舞い戻った。カリバール様の家でもあった図書館は、そのときすでに炎に包まれていた。わたしは必死にカリバール様を探したが、火の勢いはあまりにも強すぎた。
全身を炎に包まれ、助かりようのない大火傷を負ったわたしには、自分の力量をはるかに超えている巻物を紐解いた。すでにわたしは死にかけていた。焼けただれた肺はまともに動かず、呼吸さえ満足にできない有様だった。それでもわたしは古文書に書かれていた文字を読み上げた。失敗したら、もはや助かる見込みはない。
もちろんわたしは死ななかった。少なくとも、わたしの半身は今も生きている。だが、残る半身はアンデッドになってしまった。今のわたしは生者と死者の世界にまたがって存在している。それでいて、自分が二つの世界に属しているという感じはまったくしないのだ。
わたしの軍勢は成長をとげ、この森の守護者を自称するドルイドの注意を引くまでになった。今日、このハラスというドルイドからわたしのもとに、警告の書簡が届けられた。使者をつとめたのはスプライトだったが、この者はわたしに尋問されるのを恐れて、さっさと逃げてしまった。
我が軍勢とわたしは自然に対する侮辱であり、断固として滅ぼさねばならない。そうハラスは手紙の中で幾度となく繰り返していた。これ以上この森に留まるなら、わたしたちを一人残らず狩り出し、殺すとのことだ。本来なら、ハラスとやらには何の用もないのだが、ヴィトロスへの道をふさいでいるのでは、そう言ってもいられない。
時折、カリバール様がわたしの立場だったらどうなさるだろうと自問してみる。だが、我が主の行動は、そのすべてがいつかネクロマンサー教団を支配下に置くことを目的としていた。私自身の個人的な経験から、カリバール様は復讐心が人一倍強かったことも知っている。邪魔な者が現われると、わたしに命じてワインに毒を盛ったり心臓を短剣で一突きさせる。それが我が主のいつものやり方だった。
わたしは視線をヴィトロスに向けた。もちろん、この数年の間にわたしに害をなそうとした者すべてに仕返しをすることなどできはしない。それはよくわかっている。そんなことをしようとすれば、待っているのは間違いなくわたし自身の破滅だ。だが、わたしが望んでいるのは戦争ではない。ちょっとした復讐だ。あの守備隊長と百姓どもを一人残らずゾンビにしてやったら、さぞかし楽しかろう。
わたしは進軍を夜に限るようにしている。暗闇の中でなら、アンデッドは大抵のクリーチャーより優位に立てるからだ。
わたしたちは夜の支配者だ。にもかかわらず、わたしたちは松明を手にした山賊たちの一団が近づいてくるのに気づかなかった。すぐにわたしは山賊たちの首領に対して、金を支払う用意があることを大声で告げた。盗賊の相手をするときは、欲の深さにつけこむのが一番だ。護衛をともなわず、わたしは両軍が対峙する平原で山賊の首領と話し合った。
「金を出すだと?」
「左様。立ち去ってくれるなら、一人につき金貨百枚を支払おう」
山賊の首領はタマネギ臭い息がかかるほどわたしに顔を近づけた。「世のため人のため、手前らを皆殺しにするって言ったらどうする?そうすりゃ黄金だって全部おれたちのものになるじゃねえか!」
「命あっての物種と言うではないか。そんな命令を下すなら、貴様の首をへし折るだけのこと」
首領はゲラゲラと笑い出した。骨と皮ばかりだと思って、明らかにわたしを見くびっている。だが、わたしのアンデッド化した半身に秘められている力を知っていまい。
わたしは「死んでいる」右手を伸ばし、首領の手首をつかんだ。すこしひねると、山賊の手首はいともたやすくポキリと折れた。状況を理解して手下たちが襲いかかってくるまで数秒といったところだろう。わたしは素早く首領を馬から引きずり下ろし、喉に右手をかけた。
「アンデッドと化しているわたしの半身は、見た目よりはるかに強靱なのだよ」ささやくように言うと、わたしは首領の首を握りつぶした。わたしが右手を開くと、首領の体はドサリと地面に落ちた。
次の瞬間、戦いが始まった。
荒野で過ごした数年間に、わたしは自然界に働いている魔力に敬意を払うことをおぼえた。迷信深い者たちは「母なる自然」などと言うが、ずいぶんと横暴で酷薄な母親もあったものだ。それにしても、ネクロマンサーが<自然>を尊ぶのは矛盾だろうか?否、わたしはそうは思わない。
それにしても、このドルイドが宿している力は見たこともないほど強大だ。クリーチャーはおろか、エレメンタルでさえ虚空から呼び出せるとは。なんという魔力!これならたしかに兵士を確保するために墓を荒らす必要もあるまい。だが、この者の魔力は、ことによるとアンデッドには効かないのではなかろうか?アンデッドの体に封じられた負の力が、創造の魔力を打ち消してしまう可能性は大いにある。
わたしはこの考えを捨てる気になれなかった。このことを利用してわたしが優位に立つ方法が、きっと何かあるはずなのだ。
焼け落ちた家屋から立ち昇る煙のせいで、町の中央にしつらえた杭がよく見えないほどだ。杭が立っているのは、この町の者たちが何ヶ月か前にわたしを焼き殺そうとしたのと同じ場所だ。ただし、今、杭に縛りつけられているのは、わたしではない。ヴィトロス守備隊の隊長だ。
「お前の名は?」死に行く者たちの断末魔の絶叫にかき消されないように、少し大きな声でわたしは問うた。
「死んでいる」手で隊長の頭をつかみ、力をこめて引っぱる。たまらず隊長がうめき声をもらした。
「名前ぐらい教えてくれても良かろうに?」
「ヴィトロスのサー・マルドールだ」隊長は言った。「エミリア女王陛下はこの攻撃に対して大アーカン軍を動員なさるだろう!きっと我らのかたきをとってくださるに違いない!」
「甘いな。今、お前たちの仲間の一人が、バーバリアンによるヴィトロス襲撃について報告するために、大アーカンに向かっている。もちろん、この報告の真偽を裏付ける生き残りは一人もいない。我らがゾンビたちが、このあたりに住んでいる百姓や木こりを皆殺しにしているからな」
サー・マルドールは信じられないというように首をふった。
「真実だよ、サー・マルドール。不死にしてやると言われたときに人間が見せる行動には、ときとして非常に興味深いものがある。お前たちにとっては裏切り者ということになるわけだが、わたしたちの同志になってくれたあの男が大アーカンから帰還したら、ヴァンパイアに命じてアンデッドに変えてやるつもりだ。そんなわけで、エミリア女王がわたしをこの悲劇の犯人だと知るすべはないのだよ」
「わたしをどうするつもりだ?」マルドールの口調は弱々しかった。
「どうすると思うかね?」
マルドールはあたりを見回した。火がついていないのは、彼の足元にある木だけだ。わたしの「生きている」肌は、あまりの熱さにヒリヒリし始めている。自分自身がこの灼熱地獄から逃げ出さないようにするために、わたしは精神力を総動員しなければならなかった。
「焼き殺すつもりだな」
「そのとおり。わたしのことをおぼえているかね、サー・マルドール?」
「当たり前だ!」
「あのとき、わたしは自分が無実であることをお前に訴えた。わたしは誰一人として殺してなかった。せいぜい、あの二羽のニワトリぐらいのものだ。大アーカンは建国されてから間もないが、法が公正なことで知られている。教えてほしいものだな?わたしにとっての正義はいったいどこにあったのかね?」
サー・マルドールは目を閉じ、祈りの言葉をつぶやきはじめた。頬を叩き、わたしは彼の注意を引き戻した。
「わたしはお前を焼く。骨以外、何も残らなくなるまで」わたしは宣言した。「だが、それで終わりではない!骨だけになったら、次はその骨にお前の魂を閉じ込めてやろう。けっして裏切らない指揮官が、わたしには必要なのでね」
わたしはスケルトンの兵士の一人に顔を向け、「やれ」というようにうなずいてみせた。スケルトンはサー・マルドールの足元に積まれた薪に松明を近づけ、火がつくのを確認してから後ろに下がった。
「つかの間の別れだ」マルドールの絶叫が他の者たちの絶叫に混じり合うのを聞きながら、わたしはその場を立ち去った。
−−灼熱の地−−
詳細 | |
勝利条件: | カリバールを救い出せ |
敗北条件: | ゴールドス・ハーフデッドを失う |
マップの難易度: | 「上級」ゲーム |
持ち越し: | ゴールドスおよび彼の呪文、技能、経験は、すべて次のマップに持ち越される。自軍の勇者の最大レベルは 18。 |
わたしは滅多に夢を見ない。見たとしても悪夢ばかりだ。しかし、あれは悪夢ではなかった。幻視だ。激痛に驚き、わたしは目をさました。炎だ!熱い!助けてくれ!はるか昔、あやうくわたしを焼き殺しかけた炎の記憶が蘇る。だが少し落ち着くと、わたしは痛みを感じていたのが自分ではなかったことに気づいた。苦しんでいたのは我が主だった。
そんなことがありえるだろうか?カリバール様は<審判>によって滅んだはずだ。あの炎から逃れられるはずがないではないか?だが、あのお方が今もどこかに存在しているとしたらどうだろう?わたしにつきまとっている、何か大切なことをし忘れているような焦燥感の説明にならないだろうか?
答えはすぐにもたらされた。後頭部を棍棒でなぐられたかのように、いきなり脳裏に別の光景が浮かんだのだ。わたしが見たのは、嘲笑する残忍な悪鬼の群れに囲まれた我が主の顔だった。
「カリバール様なのですか?」わたしはささやくように言った。懇願するような眼差しが今もはっきりと思い出される。
問いかけに答えてくれる者はなかったが、自分が何をすべきかはわかっている。我が主を見つけ出さねば。わたしがとるべき行動は、それ以外にありえなかった。
この数ヶ月間、わたしは自分の領土が大アーカンやパレイドラのような国の境界線の中に入れないようにすることに心を砕いてきた。現時点では、敵を作っても百害あって一利なしだ。だが、この新世界の大部分は、今なお手つかずのままだ。実際、こうしてわたしがカリバール様を捜している間にも、かつてサー・マルドールと呼ばれていた亡霊を指揮官とする我が軍勢の本体は、新ネクロス王国の国境線を確立しようと奮戦している。
「来たれ」わたしは言った。
マルドールは、どれほど離れた場所にいようとも、一瞬にしてわたしの目前に現れることができる。わたしたち二人をつなぐ魔法の絆のおかげだ。どういうつもりかは知らないが、幽体となった今も、マルドールは黒いフードとマントで全身を隠している。今の状態を恥じるような心が多少なりとも残っているのだろうか?まあ、かつて自分が人間だったことを忘れる頃には、そんなくだらない羞恥心もなくなるだろう。
「誰かに指揮を任せてきたか?しばらく軍勢とは別行動をとってもらうことになりそうだ」
「ご安心を。ヴァンパイアのエンリック隊長がおります」
「お前を裏切った者だな。おもしろい」
マルドールの命令でエンリックは血を吸うことを禁じられ、餓え死に寸前だと聞いている。生前の裏切りに対する怒りは、死んだ今となっても静まっていないようだ。
「抵抗は激しいか?」
「いいえ。我が軍に加わることを望む生者さえおります。その者たちはネクロスに忠誠を誓うと申しておりますが、ネクロスのアンデッド軍の一員になるためには死ななければならないと言われたら、一体どうするでしょうな?」
「今のところ、その必要はない。自然死や事故死をとげた者だけで、軍勢の強化には十分だ。それよりむしろ、生きている者たちには多いに感謝してもらわなければ。なにしろ、わたしのおかげで墓場が不必要になったのだからな」
「めそめそと悲しむ必要もなくなったというわけですか」皮肉っぽくマルドールが言った。
マルドールは未来永劫にわたってわたしの下僕だが(わたしと奴を結んでいる絆は、わたしとカリバール様を結んでいる絆より強固だ)、多少の反抗心は残っている。とはいえ、それを煩わしく感じたことはない。それどころか、意に添わない命令であっても従わざるをえないとわかっているおかげで、奴をこき使うのがいっそう楽しくなっているほどだ。
「わたしに同行するのだ、マルドール。今度の旅には軍勢を率いる指揮官が必要なのでな」
多くの者が悪鬼クリーガンは<審判>によって滅んだと思っているが、わたしは真実を知っている。たしかに奴らの数は激減し、統制を失って弱体化した。しかし、別世界に避難した者たちも少なからずいるのだ。カリバール様もそこにおられるに違いない。
「ご命令のままに、ご主人様」マルドールが言った。
「当然だ。お前に選択権はない」
膨大な魔力を確保しなければ、特定の場所につながる<門>を開くことはできない。また、たとえ魔力を確保できても、それを制御する術を知る者は一人としていない。それは、はるか昔に忘れ去られた知識だからだ。だが、一時的に<門>を開くための理論ならわかっている。<黄金律>の中に存在するすべての物に流れる力の合流点に、膨大な魔力を解き放ってやれば良いのだ。
<自然>の魔術の研究をとおして、わたしはこの魔力の流れを見つける方法を習得した。力の合流点を見つけるのも、それほど困難ではあるまい。むしろ大変なのは、<門>を開くことだ。だが、ある「きっかけ」のおかげで、そちらの方も何とかなりそうだ。
その「きっかけ」とは、この地のアンデッドを討伐しに来たパレイドラの騎士だ。この騎士は≪天使の剣≫と呼ばれる悪鬼に対して絶大な威力を発揮する剣を探している。この剣が悪鬼どもの力の源になっている世界とつながっていることは間違いない。そうでなければ、悪鬼に対してそれほどの威力を発揮するはずがないからだ。
まずは≪天使の剣≫を見つけねば。この剣を魔力の合流点で砕けば、我が主が待つ世界への<門>が開かれるはずだ。一か八かの賭けだが、他の選択肢があろうか?
亡霊は眠りを必要としない。わたしが休息のために軍勢を停止させるのを待って他のこと(たとえばネクロスの国境を確保するために行っている作戦)の様子を見に出かけるのが、マルドールにとっての常だった。そして、わたしが目をさます頃に戻ってきて、進捗状況を報告するのだ。だが、昨夜は様子が違っていた。
「来たれ、マルドール」
数分後、マントに身を包んでマルドールが姿を現した。
「どこに行っていた?」
「大アーカン国の西の国境を見てまいりました。興味深い噂を聞き、その真偽を確かめたかったもので」何事かに奴は興奮している様子だった。
「どういうことだ?」
「大アーカン国の西の国境地帯が襲われております。襲っているのはかなり大規模なバーバリアンの部族でございます。どうやらエミリア女王は、このバーバリアンどもに対処するため、持てる兵力の大部分を送るという致命的な過ちをおかした様子。おかげで東の国境は無防備と言っても良い状態でございます。今なら、ものの一か月で大アーカン国を征服できましょう」
大アーカン国を征服する?<審判>の後に築かれた国の中で、大アーカン国は最も大きく、おそらくは最も強い国だ。荒涼とした風景がどこまでも広がるネクロスと違い、大アーカン国は資源に恵まれている。あの国をネクロスの領土にできたら、間違いなくわたしはこの星で最強の存在になれるだろう。
なのに、大アーカン国に進撃した結果を考えると恐ろしい気持ちになる。なぜだ?
「計画を立てよ。検討する」
わたしは切り株に腰を下ろし、マルドールが描いた地図を膝の上に広げ、何時間も仔細に検討した。
申し分のない計画に思える。それなりの戦力と投入すれば、大アーカン国の国境を突破し、行く手にある墓場や村で軍勢を強化しながら進撃できるだろう。そして、昼も夜も行軍をつづければ(アンデッドの兵士たちにとっては容易なことだ)、一か月以内に大アーカン国の王座を我が物にできるに違いない。いったんそうなってしまえば、たとえ西の国境に展開している大アーカン軍が引き返そうとしても、時すでに遅し。本当に引き返してきたところで、その時点で我が軍の規模は敵の二倍になっているだろう。もっとも、完全に奴らを屈服させようと思ったら、五倍の規模の軍勢が必要だが。
「手を加えるべき箇所はあるでしょうか?」背後に立ったマルドールが言った。
「いや」
「どういうことだ?」
わたしは地図をたたみ、思うところあって懐にしまった。
「大アーカン国に対する攻撃は行わぬ」わたしは言った。「わたしはネクロマンサーがたどってきた歴史を心得てる。ネクロマンサーが脅威になると、必ず全世界が一致団結して軍を起こすのだ。死者と親しく交わる者に支配されるのは、誰にとっても、それこそオークやトロルにとってさえ、我慢できることではないからな!」
「しかし、すべてを征服できるのですぞ!」
「いいや。過ぎた野心を持つことは、ネクロマンサーにとって確実な破滅を意味する」
「世界を支配することだって不可能ではないのに!なぜ、あえて弱いままでいることを望むのです!?」
「弱いままでいることを望んでいるのではないぞ、マルドール。敵に無害だと思わせておきたいのだ。それに、そもそもわたしは世界征服なぞ望んでいない。そんなことをして何になる?十中八九、待っているのは死だ!いいか、わたしの願いはごくわずかの領土さえあればすべて叶うし、わたしはそれで満足なのだ。消えろ!これ以上出過ぎた口をきいて、わたしを怒らせる前に!」
命じられたとおり、マルドールは消えたが、わたしにはまだやるべきことがあった。
わたしはマルドールの地図を懐から取り出し、先ほど思いついた別の使い道のことを考えて微笑した。
マルドールが大アーカン国を征服するために考えた戦略が記された地図に手紙を重ね、まるめて黒いロウで封をする。ここでわたしは少し困った。これまでネクロス王として親書をしたためたことがなかったので、紋章を彫った指輪を用意していなかったのだ。本当なら、ロウが固まる前に指輪の紋章を封に押しつけ、署名がわりにするのだが。まあ仕方がない。今回は拇印で許してもらおう。
これまでの経験から、わたしは宇宙を統べる<黄金律>には二つの力が作用していると信じるにいたっている。すなわち<創造>と<破壊>だ。わたしはその一方を理解しようと努めてきた。そうすることによって、<黄金律>の秘密をも知ることができるのではないかと考えたからだ。<破壊>には見境がない。目的のためなら誰であろうと利用する。かつてはわたしたちのようなネクロマンサーだけが<破壊>と<死>の力の体現者だと思っていたこともある。とんだ間違いだ。
壊れぬ物はない。死なぬ者はいない。これが宇宙を統べる<黄金律>の真実だ。
したがって、ネクロマンサー(すなわち<死>の体現者)が統治する国でさえ、いつかは滅びる運命にある。サンドロのような強力なネクロマンサーが世界を征服しようとしたとき、<破壊>の力は一時だけ彼らを後押しした。だが、やがて<破壊>は心変わりした。適切な表現ではないかもしれないが、あえて言おう。<破壊>と<死>は彼らを裏切ったのだ。これが唯一人として長く世界を支配できたためしがない理由だ。
死なぬ者はいないのだ。
だが、宇宙を統べる気まぐれな<黄金律>に目をつけられない限りは安全だ!
目がさめるとマルドールが枕もとに浮かんでいた。わたしを殺すことを考えていたに違いない。マルドールにわたしを殺すことはできないが、奴自身はそのことを知っているのだろうか?
マルドールの霊魂を下僕にしたとき、わたしは奴の頭蓋骨を粉にしてインクに混ぜ、そのインクを使って「生きている」左腕にマルドールの名を刻み込んだ。この刺青がある限り、マルドールは永久にわたしのものだ。
「国境の情勢はどうだ?」わたしは快活な口調で尋ねた。マルドールは機嫌の良いわたしを見えることを嫌っていた。
「エンリック隊長が最後の南方守備隊の編成にあたっております。それが済んだら軍勢を率いて北に進軍するよう命じておきました」
「ほう、なぜそんな命令を?」
「大アーカン国を征服する好機を逸したからです。どのような理由からかはわかりませんが、エミリアは南東の国境地帯の守りを固めるため、西に展開していた戦力の三分の一を撤退させました。エンリックに北進を命じたのは、エミリアがネクロス侵攻を計画していた場合に備えるためでございます」
「ありえんことだ」自信に満ちた口調でわたしは言った。
「なぜ断言できるのです?」
「エミリア女王はわたしの手紙に反応しているだけだからだ。隣国のよしみで、女王にお前の考えた攻撃計画を送り、防衛体制の不備を指摘してやったのだよ」
「何!」
わたしはマルドールをにらみつけた。「口のきき方に気をつけるがいい」
少しの間、マルドールは自分を縛りつけている魔術を破ろうとあがいたが、やがて頭を垂れた。「申し訳ございません、ご主人様」
「それでいい!」わたしは言った。「お前はわかっていない。マルドール、戦いのやり方は一通りではない。より正確には、戦をしてはならないのだ。戦は失うものが多すぎる。だからわたしは地図をエミリア女王に送ったのだ」
「そのあたりが今もってわたしにはわかりかねます、ご主人様」
「わたしのようなネクロマンサーは、多かれ少なかれ狂った野望にとりつかれていると思われているものだ。エミリア女王も、ネクロスは周辺諸国を滅ぼし、ついには世界をも崩壊させようとしていると思っているに違いない。エミリア女王にあの地図を送ってやったのは、彼女が思い描いているわたしの人物像に、多少なりとも疑念を抱かせるためだ。今ごろエミリア女王は、わたしが手におえる存在か否か、思い悩んでいるはずだ。大アーカン国を征服することは十分に可能だったのに、なぜわたしが攻撃を実行しなかったのか、彼女は大いに悩むだろう。世界征服を望まないわたしの気持ちをお前がはかりかねたように、彼女もわたしが好機をあえて逃した理由を理解できまい」
「それで結局どうなるのですか?」
「生きられるのだ。大アーカン国とパレイドラが滅び、その後に興った国々が時の彼方に消え去っても、ネクロスだけは変わることなく同じ場所に存在しつづけ、わたしはその玉座に座りつづけているだろう!マルドールよ、それこそがわたしにとっての勝利なのだ!」
驚いたことに、悪鬼の戦士が≪天使の剣≫の番人を務めていた。彼は、太古の昔、いかにして自分たちの種族によってこの剣が鍛えられたかを語った。天使によって作られたという通説は誤りらしい。この剣を守り、いつの日にかこの剣を持つに相応しい者が現れたら、その者に剣を託す。それが彼に与えられた使命なのだそうだ。
「この剣の所有者となれるのはゴールドス・ハーフデッドという男だけだ。それだけではない。レベルが 18 以上になっていることも条件だ」
虹色をした魔力の流れが回転している。訓練を受けていない者には見えないが、もちろん君は見ることができる。魔力の流れはこの地点の上で収束し、燦然と輝く球体と化していた。あまりの眩さに直視できないほどだ。ここより<門>を開くのに適した場所は見つかるまい。あとは≪天使の剣≫を砕き、君の理論が正しいことを確かめるだけだ。
→≪天使の剣≫と引き換えに<門>を開くかね?
≪天使の剣≫ほどのアーティファクトともなると、破壊するのに必要な魔力を呼び集めるだけでも丸一日を呪文の詠唱にあてなければならなかった。倒れる寸前になりながら、君は収束した魔力が形作っている光球の真下に剣を置いた。それからあらためて君は剣に近づき、「死んでいる」右手で柄を握り、残された最後の力を振り絞って剣を高くかざした。
爆発は君の体を壊れた人形のように近くの茂みまで吹き飛ばした。ようやく目を開けたとき、君の前には<門>が出現していた。
まず気づいたのは、空がもくもくと立ち昇る黒い煙で覆い尽くされていることだった。熱くて湿った空気には硫黄の悪臭が漂っている。歩くたびに、焼け焦げた地面がバリバリと音を立てた。まるで枯葉がつもった森を歩いているようだ。ついに君は異世界に、クリーガンに支配された世界にやって来たのだ。
粗末な祭壇として使われていたとおぼしき岩の上に、裸の死体が転がっていた。死体は腐敗していて、あちこちから白い骨が飛び出している。怖かったわけではないが、君は慎重に死体に近づいた。すぐにはさわらず、様子を見守ってみる。何かこの死体は奇妙だ。
いきなり死体が動いた!
君はさっと後ろに飛びのいた。とはいえ、大抵の人間のように恐怖にかられての行動ではない。純粋に身を守るためだ。弱々しい動作で腐った死体は両手をついて体を起こし、君に顔を向けた。
一部の肉が焼けてなくなっていたが、それでも君にはそれが誰であるかわかった。たとえ骨だけになっても、主人を見間違うはずがない。
「カリバール様!」君は慌ててリッチの足元に平伏した。
「ゴールドスか?」老人のような乾いた声だった。
今の君はネクロスの王ゴールドス・ハーフデッドではなく、主人とのひさびさの再会を果たした、ただのゴールドスだった。
カリバールがいきなりグラっと倒れた。君は慌てて主人をささえた。かつてそのアンデッドの体に封じられていた魔力が、まったく感じられない。いったい何があったのだろう?そもそもどうしてこんな呪われた場所に来てしまったのだ?
「ご安心を。わたしが来たからにはもう大丈夫です。力もすぐ元どおりになりましょう」そう言いながら、君はそっとカリバールに肩を貸した。
−−力の場−−
詳細 | |
勝利条件: | 5つある<力の場>に自分の旗をひるがえらせる |
敗北条件: | ゴールドス・ハーフデッドを失う |
マップの難易度: | 「上級」ゲーム |
持ち越し: | ゴールドスおよび彼の呪文、技能、経験は、すべて次のマップに持ち越される。自軍の勇者の最大レベルは 24。 |
自分が作った物を誇らしげに父親に見せる少年のように、わたしはカリバール様を都のあちらこちらにお連れした。町の地下に広がる広大な墓所もお見せした。ここにはネクロス全土から集めた死体が、氷によって低温に保たれた小部屋に貯蔵されている(今はアイスデーモンがいてくれるので、氷の調達がとても楽になった)。わたしの命令があり次第、ネクロンサーたちが死体を蘇らせ、瞬く間に大軍団を生み出すという仕組みだ。最後に数えた時点では、この墓地には三千体近い死体があった。いざとなれば、このネコルラムで暮らしている生者たちを殺すことで、最大で六千体のアンデッド兵を調達することができる。
魔道師ギルドについては、かつてのネクロマンサー教団とは比べるべくもないと言われてしまったが、カリバール様はどれだけ短期間でこれだけの発展を成し遂げたかご存知ないのだ。ほとんどの者にとってネクロマンサーは恐怖の対象であり、自分がネクロマンサーになることなど想像さえできない。それにも関わらず、我が魔道師ギルドは確実に発展しつつある。六歳以下の子供をネクロマンサー見習いとして差し出した家庭には奨励金を出すという政策が実を結び、最近では志願者も現れ始めているほどだ。カリバール様の助けがあれば、必ずや魔道師ギルドは、いつの日にかネクロマンサー教団と比肩しうる存在になるだろう。
「すべてあなた様のものです」ひととおり都の中を見終わった後、私はカリバール様に言った。
カリバール様はしばらく何もおおせにならなかった。やがて、カリバール様はお疲れになったご様子でわたしにもたれかかってこられた。カリバール様の体は衰弱したままで、長く動きつづけることはまだ無理なようだ。カリバール様は一言だけおっしゃられた。「これは始まりにすぎぬぞ」
四ヶ月前のことだ。
数ヶ月前からつづいていたクリーガンとアンデッドの間の緊張は、昨夜、ついに暴動へと発展し、ネコルラムの半分が破壊された。我が主はいまだに回復しておられず、騒ぎを起こした悪鬼や悪魔に対処するのは無理だった。いや、おそらくはそれこそが、彼らが決起した理由なのだろう。彼らは我が主が衰弱なさっていることを感じ取ったに違いない。彼らが何かに敬意を払うとしたら、それは「力」だ。今回の衝突は、起こるべくして起こったと言えよう。
さらに、悪魔たちが町を占拠したという知らせが、各地から届いている。今やネクロスは混沌の渦中にある。幸いにして、反乱軍を一つに束ねる指導者は今のところ現れていない。これが唯一の吉報だ。もし彼らが一致団結したら、我らの進退は極まったも同然だ。
「あなた様が国王のままでいれば、こんなことにはならなかったでしょうに」二人でネコルラムの外壁の上を歩いていると、マルドールが言った。
マルドールに実体があったら、平手打ちを食らわしてやるところだ。わたしはどうしても奴が脱ごうとしないマントを引き剥がし、はるか下の地面に放り捨てた。
「同じことをもう一度言ったら、聖水の池で泳がせるぞ!」
「お許しを、ご主人様!」
「カリバール様がわたしたちの王であり、主人であらせられるのだ。わたしが玉座をお譲りしたことと今回の反乱が起きたことには、何の関係もない」
「おおせのとおりでございます、ご主人様」
わたしはマルドールに暴動で捕らえたインプと悪鬼をすべて処刑するように命じた。暴動を扇動したのは悪魔たちだったが、彼らを捕らえることはできなかった。
「町の中心部において、奴らの同族の目の前で行うのだぞ!奴らを一人残らず震え上がらせてやれ。カリバール様の支配に揺るぎがないことを教えてやるのだ!」
壁のところにマルドールを残し、わたしは魔道師ギルドの地下にある薄暗い回廊をとおって、カリバール様のカビくさい書斎にむかった。衰弱なさっているにも関わらず、カリバール様は何か秘密の計画を進めておられた。何をなさっているのかお尋ねしたいのは山々だったが、我が主が詮索されることを嫌い、内密に事を進めるのがお好きな方だということは、ずっと以前から承知している。
ネクロス全土で反乱が勃発しているという話をしたときも、我が主に驚いた様子はなかった。
「王国には力強い指導者が必要だ。しかし、<審判>から逃れるために使った呪文のせいで、我が肉体はいまだに衰弱したままだ」そうカリバール様はおっしゃられた。どのようにして<審判>から逃れ、なぜ悪鬼どもの世界にたどりつくことになったのか、その理由を我が主がほのめかしたのはこれが初めてだった。
「全快なさるまでお守りいたす所存です、カリバール様」
「わかっておる、わかっておる。もっとも、今のわたしに保護は必要ないと思うがな」広大な書斎の暗闇には、カリバール様だけに忠誠を誓っているヴァンパイアやゴーストがひそんでいた。我が主の近衛兵というわけだ。
「では、どのよな形でお助けすればよろしいのでしょう?」
「その問いに対する答えは簡単だ。ネクロスの一部を悪魔どもに奪われた現在の状態で実行するのは困難かもしれんがな。五つある<力の場>を活性化させるのだ。方法は後で教えてやる。五つすべてを同時に活性化させることができた者は、これまでに一人としておらん。しかし、お前がこの偉業を成し遂げてくれれば、あそこから魔力を引き出すことによって呪文にむしばまれたこの体を再生し、悪鬼どもの反乱を鎮圧することができるようになろう!」我が主の頭蓋骨から復讐への渇望が燐光となって立ち昇った。
このときのわたしは、カリバール様の復讐心は悪鬼に向けられているものだとばかり思っていた。わたしは愚かだった。
今朝、この村に馬で乗りつけたわたしたちは、インプたちが村人を襲っている現場に出くわした。わたしは即座に愚かな小鬼どもを始末し、村にある死体を一つ残らず集めてくるように兵士たちに命じた。一人でも多くの兵士が欲しかったのだ。
そうこうしていると、小屋の一つから悲鳴が聞こえてきた。わたしは声がした方に急いで向かった。取逃がしたインプがいたかと思ったのだ。勢いよく戸を開けたわたしが見たのは、床に転がっている中年男の死体だった。首が引き裂かれ、血が流れ出している。壁際にはヴァンパイアのエンリック隊長が立っていて、若くて美しい娘を追いつめていた。
「エンリック!」
次にわたしの口から出たのは、ヴァンパイアの体から力を奪う魔法の言葉だった。エンリックの腕をふりほどき、娘は部屋の隅に逃げ込んだ。家の外に逃げ出さなかったのは、唯一の戸口にわたしが立っていたからだ。エンリックはくずれるようにして床に倒れ、わたしを見上げた。その目はあきらかに混乱していた。
マルドールがいてくれればと思わずにいられなかった。だが、カリバール様をお守りし、悪鬼どもによる再度の暴動に備えて町の守備隊を指揮させるため、マルドールはネコルラムに置いてきてしまっていた。エンリックでは役者不足だ。餓えによって、いともたやすく我を忘れるとは。
わたしは娘をにらみつけ、無言で「そこを動くな」と命じた。それからわたしは部屋を横切り、倒れているエンリックの前に立った。
「なぜ?」尋ねたのはエンリックだ。
わたしは「死んでいる」腕で力いっぱいエンリックの頬をはった。普通の人間なら死んでいるほど強烈な一撃だ。
「貴様がわたしの命令に反したからだ、愚か者め!わたしの許しがない限り、生きている者に危害を加えてはならないと命じておいたはずだぞ。忘れたか?」
わたしがこの命令を発したのはネコルラムを発つ前のことだ。ネクロスに安定を取り戻すことができた場合、鉱夫、農夫、商人といった生きている人間が必要になるとわかっていたからだ。生者たちには、わたしが支配している限り安全だと感じさせなければならない。生者がいなければ、ネクロスの経済は成り立たないのだ。
驚くような素早さでエンリックは平伏した。わたしが生きている者を保護する理由を理解したわけではない。ただ、自分が何か間違いをおかし、わたしの慈悲を請わなければならないと感じただけの話だ。これがヴァンパイアの不死性と引き換えに、マルドールを裏切った男だとは。エンリックがヴァンパイアとして生きることのどこに魅力を感じたのか、わたしにはわからない。なんとなくロマンチックだとでも思ったのか、それとも死への恐怖心からか。もしかすると、単に人を殺したかっただけかもしれない。いずれにせよ、こいつがわたしの嫌悪するタイプのアンデッドであることだけは確かだ。愚かで、自分は「悪」なのだから何をしても良いと思っている。
わたしはエンリックの長い黒髪をつかみ、家の外にひきずり出した。
「槍を五本、持ってまいれ!」わたしは誰にともなく叫んだ。
エンリックが許しを求めて泣きわめくのにかまわず、わたしはゾンビたちにエンリックを押さえているように命じた。両手両足に槍を突き刺し、エンリックを地面に縫いとめる。そして五本めの槍で、わたしは奴の情けない悲鳴を終わらせた。もちろんエンリックを殺したわけではない。この程度の傷でヴァンパイアを殺すことはできないのだ。地面に串刺しになったままであっても、エンリックはかなり長く生きていられるだろう。だが、実際にはあと二、三時間で片がつく。
戸惑う兵士と恐れおののく村人たちに向かってわたしは言った。「エンリック隊長は生きている者には手を出すなというわたしの命令に背いた。その罰として、これから二十四時間、この者を今の状態にとどめておくものとする。この者のいましめをといた者は厳罰に処す!」
夜が明けたとき、エンリックの命運は尽きた。本人にもそのことがわかったらしい。恐怖に凍りついた目を見ればわかる。
なぜかはわからないが、わたしは先ほどの小屋に戻っていた。兵士たちが集めてきた死体は十五人分あった。わたし一人で全員を我がアンデッド軍団に加えようと思ったら、けっこうな大仕事だ。それなのにわたしは、救ってやった娘を気にしている自分を感じずにはいられなかった。
娘は死んだ父親のために泣いていた。
わたしの背後ではスケルトンが無言のまま命令を待っていた。
「この女を連れて行け」わたしはスケルトンに命じた。「傷つけてはならんぞ!」
スケルトンが前に進み出て、娘の腕をつかんだ。
「それと、この死体を他の死体と一緒にしておけ」そう言ってわたしは父親の死体を指さした。
わたしは娘に危害が及ばないように計らってやった。十分な食事を与え、テントと専用のベッドを用意し、途中で立ち寄った村から連れてきた生きている召使いをつけてやる。さらには、血のついた質素な綿のスモックのかわりに、優雅な黒いドレスまで仕立ててやった。もっとも、娘はこのドレスを着ようとしなかったが。
だが、エンリックを処刑して以来、わたしは娘に一言も話しかけていない。なぜだ?この疑問にすっかり気をとられていたわたしは、待ち伏せに気づかなかった。
わたしたちは街道に沿って行軍していた。わたしがいたのは列の先頭で、娘は物資と一緒に最後尾にいた。そこに悪鬼の混成部隊が襲いかかってきた。彼らの攻撃は実に統制がとれていた。狙ったのが列の中央部だったら、かなりの損害が出ていたかもしれない。だが、彼らはまっしぐらにわたしを目指してきた。わたしは呪文を使って悪鬼たちに傷を負わせ、何匹か倒しさえした。しかし、撃退するにはいたらなかった。一体のアイスデーモンがわたしにとびかかってきた。味方の兵士が引き離そうとするが間に合わず、鉤爪がわたしの「生きている」太ももを深く切り裂いた。
戦いが終わった後、わたしは岩の上に腰をおろし、ズボンを切り裂いて傷の具合を見た。血が足を濡らし、水のようにブーツの底にたまっている。さすがのわたしも、その光景にひるんだ。アイスデーモンの一撃は、動脈に達していたのだ。失血死はまぬがれまい。
死ぬのだ。わたしは笑った。
つねづねわたしは、「生きている」半身が死んだらどうなるだろうと思っていた。脳卒中で倒れた者のように、左半身だけが死んで動かなくなるのだろうか?それとも、すでに「死んでいる」半身も本当に死んでしまうのだろうか?
わたしは天を仰いだ。「なるほど。ようやくわたしの件に片をつけるつもりなのだな、<黄金律>よ?」
「<黄金律>に話しかけているのですか?」
声の主はわたしが助けた娘だった。今も綿のチュニックを着ている。
「いつもというわけではない」わたしは答えた。「いつかこんな日が来るとは思っていたが、自分ではもっと華々しい最後を遂げるつもりだったのだがな。どうやら自惚れていたようだ」
娘は乾いた地面に染み込んでいく血に目をやった。
「血を流しているんですの?アンデッドのあなたがどうして?」
「アンデッドなのは半分だけだからだ。頼むから説明は求めないでくれ。話してやってもいいのだが、どうせ話し終わる前に失血で死んでしまうだろう」傷口を手でぎゅっと押さえていたものの、熱い血が指の間から溢れ出るのが感じられる。
「見せてください」そう言うと娘は、用心しながらもわたし近づいてきた。
傷口から手を離すと、真っ赤な噴水がほとばしった。鮮血が娘の服にかかり、茶色く変色した父親の血痕と混じり合う。
「神よ!ひどい傷!」
すぐに娘は傷口を手で押さえ、魔法の言葉をつぶやいた。奇妙な、なんだか力が抜けるようなエネルギーが流れ込んでくる。あまりいい感覚ではなかった。正直に言えば、できれば二度と味わいたくない。だが、娘が血に濡れた手を離したとき、傷はすっかりふさがっていた。
僧侶だったとは!まったく予想外だった。この出会いも宇宙を統べる<黄金律>の企みの一環に違いない。
「感謝する」わたしは娘に礼を言った。「わたしはゴールドス」
「アラーナです」
アラーナは<生命>の魔術の僧侶に違いないとわたしは直感した。だからこそ理性の忠告を無視して彼女を同行させたのだろう。この判断を「神々が与えたもうた霊感」と称する連中もいるだろうが、<死>の魔術に近い存在であるがゆえに自分と正反対の存在を感知しえたのだと信じたいものだ。
アラーナに命を救われたわたしは、話がしたいから列の先頭に来てくれるように彼女に頼んだ。今もわたしは、<破壊>の力について理解することさえできれば、宇宙を統べる<黄金律>の秘密を手に入れられると信じている。新しい呪文をおぼえるのと理屈は同じだ。いくつかに分け、理解可能な単位まで分割した後、総体として学べば良いのだ。
だが、<創造>について多少のことを知っておくのも無駄にはなるまい。
「己を知り敵を知れば百戦危うからず」とマルドールも言っている。
そんなわけでアラーナとわたしは、<生命>の魔術や、癒し、誕生、愛などについて何時間も議論を戦わせた。とはいえ、最初のうち彼女は気乗りしない様子だった。無理もない。いくら虜囚らしい扱いをされていないとはいえ、虜囚であることは確かなのだから。だが、わたしの関心が本物であることがわかると、彼女もついには心を開いてくれた。
「あなたのような人の話は聞いたことがありませんわ、ゴールドス」
「どういう意味かな?」
「何と言ったらいいのかしら。完全に汚れたアンデッドになっていないからだと思うのですが、あなたは他のネクロマンサーに比べてずっと感受性が強いような気がします。あなたにはまだ希望がありますわ!」
アラーナがわたしに親しげな態度をとる理由がようやくわかった。わたしを改心させることができると思っているのだ。わけもわからず邪教の儀式に参加している農夫を改心させるように。
「わたしがこのような存在であるのは体のせいではない」わたしは強い口調で言った。まったくの真実というわけではないかもしれないが、たとえ完全な生者か亡者のいずれかであっても、自分は今ここにこうして存在しているだろうと思いたかったのだ。
「たしかにそのとおりです。でも、今ならまだこの邪悪な道を引き返せることを示す暗喩だと思うのです」
「邪悪な道?勝手な思い込みだな!」
「そうでしょうか?実際にあなたはスケルトンや悪鬼を従えているではりませんか?あなたは死者に永遠の苦しみを与えているのです!ですが、そうする必要なんてなったのに、あなたはわたしの命を救ってくださいましたし、兵士たちが生者に危害を加えることも禁じておられます。自分の行いの中に、悪だけでなく善も含まれていることが、おわかりにならないのですか?」
「わたしは理性的に行動しているだけだ。善や悪は関係ない」
「善と悪、<創造>と<破壊>。お好きな呼び方をなさればよろしいでしょう。ですが、言葉は違っても意味するものは同じです」アラーナはかたくなだった。
「なるほど。君は<創造>は善であると考えているのだな?」
「もちろんですわ。実際にそうなのですから!」
「では君は、宇宙を統べる<黄金律>が憎悪と破壊を糧としている悪魔を作ったのも良き行いだと言うのかね?」
「いえ、それは...」
「それに、どうして<破壊>は善でありえないのかね?森林火災は一見すると悲劇だが、この<破壊>の力によって森の地面は活力を取り戻し、木々は以前にもましてすくすくと成長できるのだぞ」
「それは純然たる自然の営みです!」
「わたしが言いたいのはまさにそれなのだ!自然とは<黄金律>であり、<黄金律>に倫理観はない。宇宙を統べる<黄金律>は善悪の判断を下さない。<黄金律>は善も悪も気にしない。なぜなら、そのいずれも存在しないからだ。<審判>を思い出してみたまえ。思いつく限りあれこそ最高の<破壊>の例だが、<審判>は悪と同じぐらい善もなしたと言えるだろう。たとえば、<審判>はあの忌まわしきバーバリアン、キルゴールの命を奪ったではないか」
アラーナはまるで物分りの悪い子供と話しているかのように、悲しげに首をふった。
「善は確実に存在します、ゴールドス」彼女は言った。「なぜなら、わたしは周囲にある万物の中に善を見ることができるからです。そう、あなたの中にも!」
昨夜、わたしはアラーナと夕食をとった。料理はアラーナの召使いがアヒルをローストしてシンプルな一皿を作り、わたしはヴィンテージ物のアヴリー・アンバーを用意した。
アラーナはわたしが物を食べることを知って驚いたはずだが、そのことをあえて口にするような無作法はしなかった。それに、食事中、彼女はずっとわたしの目を見て話をした。
「君は自由だ、アラーナ」食事の後、わたしは彼女に言った。
驚いたらしく、彼女の動きが止まった。
「解放してくださるの?今すぐ?」
「ああ。どうして君を連れてきたのか、自分でもいまだにわからないが、君がいなくても問題がないことは確かだ。それに、君がどう思っているかは知らないが、ネクロマンサーだからといって理由もなく人を殺すわけではない。君はわたしの敵ではないし、危険な存在でもない。好きなところへいきたまえ」
「でも...」
アラーナは杯につがれたワインを一口飲み、勇気をふり絞って言った。
「わたしは行きません」
今度はわたしが驚く番だった。
わたしが真意を問いただすよりもサキに、アラーナは言葉をつないだ。「わたしがいなくなったら、誰があなたに自分の中にある善に気づかせるのですか?」
この問いかけにわたしは目まいさえおぼえたが、心のどこかで彼女が拒否したことを喜んでいる自分にも気づいていた。少なくとも、話しをする相手には困らずにすむ。
反乱を起こした悪鬼をたばねられる指導者がいるとは思っていなかった。だが、わたしの予想に反して、スラーゼという名の戦士が悪鬼どもを束ね、わたしに対抗するための大規模な軍勢を組織した。今日、斥候の報告によって、奴を当初の目標だったネコルラムから矛先を転じたことがわかった。先にわたしを片付け、背後の憂いを断つつもりに違いない。賢明な判断だ。
この塔の奥を調べてみると、カリバール様が言っていたとおりの場所にスイッチがあった。スイッチを回すと、壁の一部が開き、何十年も訪れる者のなかった秘密の小部屋が現れた。
部屋の中央はある種の祭壇になっていて、人の腕ほどの大きさがある緑色の水晶が突き出ていた。水晶は上に向かって断続的に光りを放っており、塔の頂上まで達した光はさらに大きな第二の水晶に吸い込まれている。ここをじっくり調べる時間がないのが残念でならない。とてつもない魔力が感じられるというのに!
君は部屋に入り、水晶をゆっくりと左に三回転させた。<力の場>が活性化するのを確かめると、君はこの古代の装置と主人を結びつける特赦な呪文を唱えた。
きびすを返してその場を立ち去ろうとすると、アラーナが秘密の戸口に立って君をじっと見つめていた。
「すべてを活性化させると何が起きるのですか?」
「わたしが知る限り、すべてを活性化させることに成功した者はいない。おそらくわたしにも無理だろう」
「この場所にはどのような力があるのです?」寒くてたまらないというように、アラーナは両手で自分自身の体を抱きしめた。
「我が主は教えてくだされなかった。わたしが知っているのは、我が主を元どおり元気にする力があるということぐらいだ」
「邪悪な力だったらどうなさるつもりですか?」
「今日はずいぶんと質問が多いのだな?」
「第五の<力の場>を活性化させたら恐ろしいことが起こるとしたらどうします?」
たしかに彼女の言うとおりかもしれない。だが、君に他の選択肢があるだろうか?
「アラーナ」大きくため息をつきながら君は言った。「この部屋はいわば道具だ。その意味ではハンマーと変わらない。君の心配は杞憂にすぎない!時間があれば、どのように機能するのか、事細かに説明してあげるのだがね」
「ここにいると心がざわめくのです、ゴールドス!あなたには感じられないのですか?」
水晶をふり返った君は、あることに気づいた。君は左利きだ。だが、君は「死んでいる」右手でしか水晶にさわらなかった。
「わたしが感じるのは魔力だけだ」
わずかにふれただけで、何世紀も使われていなかった巨大な門が、ギギギギギときしみながら大きく開いた。中に入ると、通路の両脇に白骨化した兵士たちが立っていた。まるで、死後もここを守ろうとするかのように。
アラーナと連れ立って第五の<力の場>に足を踏み入れた瞬間、わたしにはわかった。ここには他の四つの<力の場>の魔力が蓄積されている。これは集めた魔力を受信者に送る送信装置だ。受信者は言うまでもない。カリバール様だ。
「恐ろしい!」そう言ってアラーナは両手で自分自身の体を抱きしめた。
「素晴らしい!」こう言ったのはわたしだ。
今やわたしは、この魔法で施錠された扉を開ける名人だ。壁の一部が開き、小部屋が現れる。中できらきらと光っているのは、水晶ではなく、黒いオニキスだった。
突然、アラーナがわたしの右腕をつかんだ。「死んでいる」皮膚に触っていることさえ気づいていないようだ。
「駄目です、ゴールドス!強大な悪を感じます!」
そっとわたしはアラーナの暖かい頬を「生きている」柔らかな左手でなでた。わたしは彼女の目をのぞきこみ、ほほ笑みかけた。
「強いのはどちらかな?善?それとも悪?」
「善です」彼女は即答した。
「なぜ?」
「悪にできることは善が作ったものを壊すことだけ。悪は何も作れません。善が存在しなければ、悪もまた存在できないのです」
彼女がわたしの理屈を使ってわたしを言い負かそうとしたことに気づき、わたしの笑みはいっそう大きくなった。本当に賢い女性だ。そんな彼女がわたしは好きだ。しかし、一つだけ彼女の考えには間違いがある。
わたしは「死んでいる」手で彼女の腕をつかみ、その腕を持ち上げた。手の先にはオニキスがある。
わたしは彼女を挑発した。「では、君に頼むとしよう。この<力の場>を活性化させ、善が悪よりも強いことをわたしに証明してみせてくれ」
かなり長い時間、アラーナはわたしを見つめていた。わたしの目に浮かぶ疑念に彼女は気づいたはずだ。彼女がわたしに教えようとしたもろもろのことが、わたしの心に疑いの気持ちを生じさせていた。
やがて彼女はわたしの左の頬にキスをした。女性の唇の感触はわたしにとって初めての体験だった。その柔らかさがわたしを無防備にした。
アラーナが手を伸ばしてオニキスを握ったときも、彼女の唇の温かさはまだわたしの頬に残っていた。彼女がオニキスを動かすと、魔力がほとばしった。魔力は彼女の体を駆け巡ったあと、ようやくオニキスに戻っていった。アラーナはその場にくずれおれた。
急いでわたしはカリバール様に魔力を送る呪文を唱えた。成すべきことをすべて成し終えた後、ようやくわたしは死んだアラーナのかたわらに膝をついた。
「君の負けだ、愛しいアラーナ。この力は君の死という<破壊>から生み出されたのだから」
誰一人として五つある<力の場>を活性化させられなかったのは理由があった。ここに来る前にわたしが野営地から抜け出し、この塔に一人で足を踏み入れたのも、それと関係がある。<力の場>を活性化させようとして命を落とした者たちの遺骨を、アラーナの目に触れない場所に始末した後、わたしがいなくなったことに彼女が気づく前に野営地に戻ったというわけだ。その時点では、第五の<力の場>を活性化させた者は必ず死ぬと確信していたわけではないのだが、やはり推測したとおりだった。わたしは少しだけ罪悪感を感じた。あくまでも少しだけだったが。
アラーナの遺体を抱きかかえて小部屋を出ながら、わたしは一抹の寂しさを感じていた。彼女を罠にはめたことについては、後悔に近い気持ちさえあった。外に出ると、わたしはアラーナの遺体をこれまでずっと彼女に仕えてきた百姓女にゆだねた。
「どこかに埋葬し、墓の上に花をまいてやってくれ」
少なくとも、アラーナに大きな借りができたことだけは間違いない。
−−生命、そして死−−
詳細 | |
勝利条件: | マルヴィッチを倒す |
敗北条件: | ゴールドス・ハーフデッドを失う |
マップの難易度: | 「上級」ゲーム |
持ち越し: | ゴールドスおよび彼の呪文、技能、経験は、すべて次のマップに持ち越される。自軍の勇者の最大レベルは 30。 |
我が主はどうなさってしまわれたのだ?<力の場>の魔力によって活力をとりもどせば、以前のカリバール様に戻られるだろうと思っていたのに、むしろ以前よりも陰鬱で心の内に明かさない方になってしまうとは、今ではわたしにも本心をさらしてくだされない。それどころか、命令以外は話しかけてさえくだされない有様だ。
反乱を起した悪鬼を一匹残らず成敗してから二ヶ月がたつが、その間にカリバール様のお姿を見たのはわずか三回だ。カリバール様が秘密の部屋にこもりっきりなので、ネクロスの行政はわたしがすべて取り仕切っている。王としての自覚がまるで欠けたお振る舞いだ。その上、最近ではアンデッドのお体にも異常が見受けられる。灰色になった肉が、腐ったボロ布のように骨からはがれ落ちつつあるのだ。
何か問題がおありになるに違いない。だが、本当のことを話していただこうとしたが、カリバール様は徹頭徹尾わたしを無視なされた。
やむなくわたしは、あえて危険をおかすことにした。魔法を使って「影」と化し、カリバール様の部屋に呪文の材料を運ぶゾンビの後をつけたのだ。部屋の扉は魔法によって勝手に開いた。材料の入った袋をゾンビが近くのテーブルに置いている隙に、わたしは部屋に忍び込んだ。わたしは壁に沿ってそっと歩いた。墓場のような室内を照らしている一本きりの松明には近寄らないようにする。カリバール様の声が聞こえてきた。どうやら我が主はさらに奥の部屋にいらっしゃるようだ。
隣の部屋の様子を見ることはできなかったが、カリバール様が唱えておられる魔法の言葉の中には理解できるものがいくつかあった。そこでわたしは、聞き取れた単語を記憶していくつかの構成要素に分解し、この不思議な呪文の効果を分析してみた。
カリバール様が唱えているのは、「拘束」の呪文の一種に違いない。<力の場>の魔力をカリバール様に結びつける際に使った呪文と似ているが、「転送」の効果も併せ持っているようだ。わたしはしばし考えこんだ。わかった!カリバール様は別の何かに<力の場>の魔力を移しておられるのだ。やがてカリバール様の口から、わたしにとってまったく予想外の言葉飛び出した。
「ご主人様!」カリバール様は叫んだ。「再びお会いできる日がようやくやってまいりましたぞ!」
主人?カリバール様に主人がいるなどということがありえるのだろうか?
長い沈黙がつづいた。しびれをきらしたわたしは、多少の気後れを感じつつもカリバール様の研究室を覗きこんでみた。魔法の<門>の門柱と門柱の間で、銀と青のエネルギーが渦巻いている。吸い込まれる!だが、エネルギーはほんの数行で消え、<門>は閉ざされた。あとにはわたしだけが残された。
カリバール様がお戻りになられることを期待しつつも恐れながら、わたしはかなり長い時間、<門>の前に立っていた。
「何をなさっておいでなのです、我が主よ?」わたしは呟いた。なぜわたしをのけ者になさるのです?
カリバール様に呼び出されたとき、わたしは主の顔を直視できなかった。だが、わたしの気まずい気持ちに気づいているのかいないのか、それについてカリバール様は何もおっしゃられなかった。
「マルヴィッチというヴァンパイアを知っておるか?」
「はい」
「あやつは≪枯木の杖≫を持っておる。わしはあれが欲しい!だが、奴はわたしに渡すことを拒みおった。奴を殺せ、ゴールドス。そして杖をわたしのもとに持ってくるのだ」
「殺せですと?本気で言っておられるのですか?」
たちまちカリバール様の形相が見るも恐ろしいものに変わった。わたしが命令に疑問を持ち、説明を求めるとは予想しておられなかったのだ。わたしはカリバール様の表情の中に以前はなかったものを見出した。純粋な凝縮された憤怒、そして狂気だ。だが、我が主の怒りは何に向けられているのだろう?わたしでないことだけは確かだ。わたしは脅威でないのだから。では何に?
「なぜそんなことを問うのだ、ゴールドス?これまでお前はわしのためであれば誰であろうと殺してきたではないか?」
「これまでとは事情が違います、カリバール様!マルヴィッチに特別な思い入れがあるわけではありませんが、奴のおかげであなた様の王国が強くなったのも事実でございます。今、奴と事を構えても、ネクロスを弱体化させるだけではありませんか!」
悪鬼たちによる反乱が勃発した際に、マルヴィッチは心強い盟友になってくれた。カリバール様が見つかる前はわたしを支えてくれたし、カリバール様が見つかった後はここぞというときに力を貸してくれたのだ。別にこのヴァンパイアに恩義を感じているわけではないが、彼が頼りになる味方という得がたい存在であったことは確かだ。
わたしが怯んでいないことを見て取ったカリバール様は、ゆっくりとした動作で手を伸ばし、骨が剥き出しになった二本の細い指でわたしの喉を挟んだ。その力たるや、信じられないほどだたt!声を出すことはおろか、わたしは息さえできなかった。
「マルヴィッチがネクロスのために果たした功績なぞ関係ない。わしにとってネクロスなぞどうでもいい存在なのだからな!≪枯木の杖≫を持ってまいれ!さもなくば、お前にかわる下僕を探すだけのことだ!」
そういってようやくカリバール様はわたしを解放してくださった。「承知いたしました」
わたしは出発の準備にとりかかった。今回もマルドールにネコルラムの守りを任せることにする。だが、奴にしてもらわねばならない仕事は他にもあった。翌晩、ネコルラムの黒い門から軍勢を出陣させながら、わたしはマルドールをかたわらに呼び寄せて言った。
「カリバール様を見張れ」わたしは命じた。「密偵の真似事をしろというのではない。ただ、できるだけ目を離さないようにしていれば良いのだ」
「なぜでございますか?何かご懸念でも?」マルドールがカリバール様を指導者として尊敬していないことを、わたしはよく知っていた。
「懸念などない!」そう言いながらも、わたしは大いに懸念すべき事態が生じつつあることを感じていた。「陰ながら我が主を見守りさえすれば、それで良いのだ。」
わたしがマルヴィッチに使者を送れば、奴はヴァンパイアの力を使って使者から情報を聞き出そうとするだろう。したがって、我が軍のことを何も知らない使者がわたしには必要だった。そこでわたしは今朝、馬を駈り、単身で近くの村に向かった。だが、死体はすべてネコルラムか最寄の貯蔵用墓地に送るように命じてあったので、村人たちがわたしに差し出せる死体は皆無だった。
「こんなことをしなければならず、心から残念に思う」わたしは村人たちに語りかけた。「誓って言うが、本当に嫌なのだ。だが、どうしてもそなたらの中から誰か一人差し出してもらわねばならない。志願者が望ましい。年老いた者であっても一向にかまわん。誰を差し出すかは、そなたらが決めよ」
ここまで言ってから、わたしは馬にくくりつけていた二つの大きな袋のうち一つを、村長の足元に放り投げた。
「黄金をつめておいた。差し出された者の命の代価だ。村のために使うが良い」
わたしは二つめの袋を持ち上げた。
「これは志願者の家族の物だ」
使者はものの数分で調達できた。志願者は四十代になったばかりとおぼしき男だった。去年の冬に肺を患って以来、病気がちで家族を養えなくなったらしい。恐ろしさのあまり、その目は大きく開かれていたが、それでも男は勇気を振り絞って前に進み出た。この男なら優れた兵士にもなれただろう。
わたしは男の喉を切り裂き、馬に積んだ。そして、村人たちの目が届かない場所まで離れてから、男をゾンビとして蘇らせた。ゾンビにしたのは話せないと困るからだ。物言わぬスケルトンは使者に向いていないのだ。わたしはゾンビと化した男に手紙をもたせ、マルヴィッチのもとに向かわせた。
今日、使者として送ったゾンビが帰ってきた。ゾンビを見た瞬間、≪枯木の杖≫の引き渡し要求がマルヴィッチに拒絶されたことがわかった。左腕が肩口で切断されていたのだ。左腕はわたしの「生きている」腕でもある。偶然の一致ではあるまい。これは威嚇だ。
「戻りました、ご主人様」ゾンビが言った。
「マルヴィッチから返事を受け取ったか?」ゾンビ自身が返答であることを知りつつ、わたしは尋ねた。
「はい。左腕を切り落とす前に、奴はわたしに返答を暗記させました。’ネコルラムにいる欲呆けリッチのところに帰れ!わたしはカリバールに、≪枯木の杖≫は七百年の間、わたしの物でありつづけてきたし、これからの七百年もわたしのものでありつづけるだろうと言った。ゴールドスよ、お前やお前の主人がこの杖を見る機会があるとすれば、それはわたしがお前たちに対してこの杖を使うときだけだ!’これが奴の言葉のすべてでございます」
「よくやってくれた」
ねぐらいの言葉をかけられても、隻腕となったゾンビはその場を動こうとしなかった。
「他にも何かあるのか?」
「はい。マルヴィッチに面会するために待っている間、わたしは他のアンデッドたちと話をし、この≪枯木の杖≫とかいうものの力について話を聞きました。彼らによると、この杖には生者と死者を等しく滅ぼす力があるそうです」
≪枯木の杖≫が他に類を見ない強力なアーティファクトであるということを知っていたが、それほどの力を秘めているとは、マルヴィッチがカリバール様やわたしを恐れないのも無理はない。たとえ戦いになったとしても、≪枯木の杖≫の先端を向けるだけで、奴はわたしたちを殺すことができるのだから。
「そうか、重ねて礼を言う」
この隻腕のゾンビが気を利かせてくれなかったら、みずから死地に飛び込むところだった。いや、それどころの話ではない。また我が主は警告なしでわたしに危険きわまりない仕事をやらせようとしていたのだ。我が主は第五の<力の場>を活性化させると命を落とすということを教えてくれなかった。今度は≪枯木の杖≫に関する警告を怠ったわけだ。
[生きているとき、お前は何と呼ばれていたのだ?」
「ハドリンでございます」
「ハドリン、どうやらわたしは君に命を救われたようだ。我が軍の物資の中には余分な武器と鎧がいくつかある。武装してくるのだ。これからはわたしの護衛として働いてもらいたい」
わたしはふと、若き僧侶アラーナのことを思い出した。そのとき、あたかも天啓のように、マルヴィッチの≪枯木の杖≫に対抗する手段が思い浮かんだ。≪枯木の杖≫にとてつもない量の<死>の魔力が封じられていることは間違いない。だとすれば、それに対抗するための何かが必要だ。そしてそれは≪生命の盾≫以外にありえない。
今日、わたしは焦土と化した村に立ち寄った。村はすでに壊滅しており、残っているのはぶすぶすとくすぶりつづける家屋の土台だけだった。マルヴィッチの仕業だ。死体は一つもない。おそらくは奴の軍勢の規模を拡大するために使われてしまったのだろう。
「ハドリン」わたしは隻腕の護衛を呼んだ。
「はい、ご主人様」
「ただちに斥候を放て。この地域に存在する他の村々の様子を調べ、マルヴィッチによる破壊がどの程度まえ広がっているか確かめるのだ」
ハドリンはうなづいた。
夕方からずっと、わたしは亡霊のような人影が視界の隅をうろうろしていることを気づいていた。最初はマルヴィッチの斥候だろうかと思ったが、我が軍の規模を確かめるためだけにこれほど近づいたのだとすれば、どうしようもない無能だと言わざるをえない。そこでわたしは自陣を離れ、一人っきりでこの亡霊に会ってみることにした。
亡霊は間もなくわたしの前に姿を現し、わたしに両腕を差し出した。害意はないらしい。わたしは待ち伏せがないか慎重に周囲の様子をうかがい、危険がまったくないことを確認した上で亡霊に近づいた。
「何者だ?」亡霊との間には安全な間隔を開けてある。これならたとえ攻撃されても、呪文を唱えるための時間は十分にある。
「ネコルラムから来ました。マルドール様の部下でございます。ゴールドス様以外には聞かせるわけにはいかない極秘の知らせをたずさえてまいりました。先ほどからゴールドス様の注意を引こうとしていましたのは、そのような理由からでございます」
「なるほど。では、さっさと知らせとやらを申すが良い。兵士たちがわたしの不在に気づく前に、陣中に戻らねばならないのでな」
「カリバール王の命令により、ネコルラム中の子供が王のもとに集められました。王は最初の百人を町の地下にあるご自分お研究室に連れ込み、残りの子供たちを魔術師ギルドの外にある檻に閉じ込めました」
かっこたる証拠があるわけではなかったが、わたしはカリバール様が子供たちをあの謎めいた<門>の彼方に送っていることを直感した。だが、何の目的で?アンデッドにしているということはありえない。子供をアンデッドにしても貧弱な下僕にしかならないからだ。これはネクロマンサーなら見習いでも知っている常識だ。かといって、子供たちを食べているわけでもないだろう。たしかにロスカンは子供だったわたしを栄養源にしていたが、我が主はリッチだ。食料は必要ない。
では、なぜ?
我が主の声がわたしの脳裏に蘇った。とりわけ一つの言葉がわたしの頭にこびりついて離れない。
カリバール様は言った、「ご主人様」と。
あれは誰のことなのだろうか?はたとわたしは、一つの可能性に思いあたった。これまでカリバール様がわたしに下した命令は、カリバール様ご自身の命令ではなかったのではあるまいか?だが、我が主の主人なら、それはわたしにとっても主人ということになろう!
わたしは馬首を小道に向けた。
「マルドールのもとに戻り、王のご命令どうりにしろと伝えよ」
君は怒号と武器がぶつかり合う音で目をさました。テントの外に飛び出すと、眩しい陽光が目をくらませた。何ということだ!野営地が襲われているではないか!
「わたしを中心にして陣を組め!」浮き足立つ兵士たちに落ち着かせようと、君は声をはりあげた。
わたしは深い紫色をした清楚なローブをまとい、フードをかぶった。だが、まだ正体を隠すには不十分な気がする。そこでわたしは、腕の良い細工師を雇い、「生きている」側の顔を正確にかたどった銀の仮面を作らせた。仮面をつけ、修道士風に両手をローブの袖に入れると、「死んでいる」肉体はすっかり見えなくなった。
この格好でわたしは<コーベルトの聖地>に足を踏み入れた。
この場所とここにいる修道士たちは、ネクロスの建国以来、わたしにとってずっと鬱陶しい存在だったが、何らかの行動を起こさなければならないほど邪魔というわけでもなかった。コーベルトという聖なる騎士がアンデッドの軍勢と戦って討ち死にしたこの地に修道士たちが聖地を築いたのは去年のことだ。わたしがここに来たのは、コーベルトこそが≪生命の盾≫の最後の所有者だったからに他ならない。
「巡礼の方ですが?」青い顔をした修道士たちの一人が問いかけてきた。
「ええ」柔らかな口調でわたしは答えた。「情け深き騎士コーベルトの墓を一目見ようと思いまして」
「騎士コーベルトは遠からず聖コーベルトと呼ばれるようになるでしょう!」修道士は誇らしげに言った。
「それは本当ですか?」
「ええ。あとはパレイドラからの使者を待つばかりです」
「墓を拝見してもよろしいでしょうか?」
修道士が眉をしかめた。わたしは緊張した。不信感を持たれてしまったのだろうか?まさか、腐りかけた皮膚が、ちらりと見えてしまったのでは?
「もうしわけありませんが、然るべきお方にしか立ち入り許可が出せないのです。油断のならない悪鬼どもがはびこっていなければ何の問題もないのですが。我々が用心深くあらねばならない事情をどうかお察しください」
「なるほど、なるほど!もっともなことです!で、どうすれば身の証しを立てることができましょうか?」わたしは間抜けな修道士たちに精一杯の愛想をふりまきながら尋ねた。必要とあれば、イラクサで自分の体を鞭打つことさえ厭わなかっただろう。
「そうですな、では騎士コーベルトの名誉にかけて、邪悪なアーティファクトを一つ持ってきていただきましょうか。もちろん、持ってきてくださった邪悪なアーティファクトは、わたしどもが破壊いたします。噂によれば、東のどこかにあるドラゴンのねぐらに≪死の鎧≫があるとか。何十人もの巡礼がこの鎧を求めて旅立ちましたが、これまでのところ残念ながら一人残らず返り討ちにあっております」
≪死の鎧≫を手渡した君は、修道士たちが念入りな儀式によって鎧から魔力を消し去る様子を見守った。≪生命の盾≫を手に入れた後でこの鎧も取り戻したかったのだが、それは不可能になってしまった。
「準備はよろしいですかな?」修道士の一人に尋ねられた。「これからあなた様をコーベルトの墓所へご案内しましょう」
聖地の地下へと導かれたわたしは、鍵のかかった三枚の扉を抜け、重武装の衛兵二十人の前を通り過ぎ、ようやく巨大な石の棺が奥の壁際に鎮座する部屋にたどりついた。
「美しいものでしょう?騎士コーベルトの神聖さをお感じになりませんか?」すでに何百回も見ているはずなのだが、それでも修道士の口調は恍惚としていた。
「申し分ない!」わたしはささやくように言った。
「は?」
わたしは返答がわりに修道士の頭を近くの壁に叩きつけ、魔法を使って棺を静かに開いた。棺の中にはコーベルトのミイラ化した死体が、まるで眠っているような安らかな表情で横たわっていた。組み合わされた手の下には剣と盾がある。だが、剣に用はない。
このときのために買っておいた小さな銀のハンマーで≪生命の盾≫を叩くと、盾とハンマーは両方とも消えた。今ごろは聖地の外に出現しているはずだから、後で回収すればいい。ここから抜け出せば仕事は終わりだ。そのとき、わたしの頭に悪趣味なジョークがひらめいた。
いつでもかけられるように常に用意してある呪文を唱え、わたしはコーベルトの「聖なる遺体」を立ち上がらせた。骨が砕け、乾燥した皮膚がバラバラとはがれ落ちる。コーベルトはわたしに体を向け、命令を待った。
わたしはコーベルトに愛剣を握らせた。「この建物にはローブを着たハゲが大勢いる。奴らを殺せ!」
命令を下すと、わたしはその場から立ち去った。それにしても、「情け深き騎士コーベルト」が起き上がって歩いている姿を見たときの修道士たちの顔を想像すると、忍び笑いを我慢することができなかった。これでも奴らはコーベルトを聖人の列に加えようとするだろうか?
わたしはマルヴィッチの手から≪枯木の杖≫をはぎ取った。すべてが終わった今でさえ、枯れを殺さなければならなくなったことが残念でしかたない。今日、ネクロスは以前より少し弱くなった。せめてこの呪われた杖はそれだけの価値があれば良いのだが。
≪生命の盾≫からは<生命>そのものが感じられたように、このアーティファクトは負の魔力を放出している。あまりの苦痛に、「生きている」左手では持っていられないほどだ。
杖をまじまじと見たわたしは、このアーティファクトが完全な状態でないことにすぐ気づいた。先端部がなくなっている。完全な状態でないということは、魔力も完全ではないということだ!だが、これだけの力を秘めていながら不完全だとしたら、完全な状態ではどれほどの力を発揮するのだろう?
マルヴィッチが手放そうとしなかったのも当然だ!きっと彼は、何百年もの間、先端部を探しつづけていたに違いない。先端部さえあれば、彼は世界を制することさえできただろう。わたしがマルヴィッチだったら、やはりわたしも≪枯木の杖≫を渡すまいとしただろうか?
だが、もしそうなっていたら、死んでいたのはわたしだっただろう。
ハドリンが近づいてきた。
「何のご用でしょう、ご主人様?」
≪枯木の杖≫を顔の高さまで持ち上げながら、わたしは言った。「ネコルラムに帰還するぞ。今すぐにだ!ネクロスの領土として確保するため、ここには駐屯部隊を残していけ。我々に同行する戦力はごくわずかで十分だ」
心の中でわたしは、カリバール様はいったい何者に仕えているのか、きっとつきとめてやると誓った。たとえそのためには、カリバール様が秘密にしておられるあの<門>をくぐらねばならないとしてもだ!
−−不浄なる吐息−−
詳細 | |
勝利条件: | カリバールを倒し、ネコルラムを攻略する |
敗北条件: | ゴールドス・ハーフデッドを失う、またはカリバールを倒せずに4ヶ月目を迎える |
マップの難易度: | 「名人」ゲーム |
持ち越し: |
ネコルラムに戻ったわたしは、通りに集まった人々の懇願するような眼差しを正面から受け止めることができなかった。だが、それ以上に困難だったのは、魔道師ギルドの外にある巨大な檻の中で泣いている子供たちを無視することだった。わたしが思い描いていたのは、こんな町ではなかったはずなのに!だが、現実のネコルラムは、ネクロマンサーが支配する他の町と同じような、暴虐と闇と恐怖が支配する場所になりさがっていた。
我が主は自分が何をしているかわかっておられるのだろうか?
その後、わたしはカリバール様と魔道師ギルドで会い、≪枯木の杖≫をお渡しした。我が主は一言もしゃべらないまま、町の地下にあるご自分の研究室に帰ってしまわれた。何をそんなに急いでいらっしゃるのだろう?
そうか、<門>のところに行かれるおつもりなのだ!≪枯木の杖≫を欲していたのはカリバール様ではなく、カリバール様の正体不明の主人だったに違いない!
わたしはカリバール様の後を追った。
カリバール様の部屋に忍び込んだとき、我が主はすでに<門>をくぐってどこかに行ってしまわれていた。だが幸運にも、<門>はまだ作動していた。そうすることが賢明な判断か否か、考えている暇はない。わたしは大きく息を吸い込み、<門>に飛び込んだ。
予想に反し、<門>を抜けたわたしが目にしたのは、はるか異国の城でも別世界でもなかった。そこは完全な異界だった。精霊界に似ていなくもない。あえて名づけるとすれば、わたしはこの異界を<死界>と呼ぶだろう。
その荒涼とした様子はわたしをすくませた。どんよりとした空気。冷気がわたしの「生きている」半身を凍えさせる。ここにそう長くはいられそうにない。
だが、それでもわたしは不毛の大地に残されたカリバール様の足跡を追った。カリバール様は何度となくここを歩かれたことがあるに違いない。もっと小さな足跡も数多く残っていた。子供たちの足跡だ。
カリバール様は簡単に見つかった。大変なのは隠れる場所を見つけることだった。わたしは岩場に身をひそませ、カリバール様が人間離れした長身の人物に近づいていくのを見守った。その人物の顔はマントのフードに隠れてよく見えない。黒いマントがあたかもそれ自体が生命を持っているかのように、背中でたなびいている。黒いマントはウェディングドレスのすそのようにも見えた。黒い、不吉なウェディングドレスだ。
こいつはこの<死界>で生まれた存在に違いないとわたしは直感した。
あたかも祈りをささげる僧侶のように、カリバール様は平伏し、相手を直視しないようにしながら≪枯木の杖≫をうやうやしく両手で差し出した。
「お受け取りください、ご主人様!」
「それはお前がもっておれ、カリバール。例の物はお前の世界で作らねばならぬのだからな」
「はい、ご主人様」
「惑星が直列する<合>を待て」謎の存在はそう言い、ゆっくりとした動作でそれまで黒いマントに隠れていた手を差し出した。枯木を思わせるその灰色の手には、得体の知れない動物の頭蓋骨が載っていた。
「<合>が訪れたら、これを≪枯木の杖≫に取り付けよ」
カリバール様は黒衣の巨人に平伏したまま頭蓋骨を受け取った。
「かしこまりました、ご主人様!必ずやご期待に応えてごらんにいれます!」
わたしは目を丸くした。わたしが「我が主」と呼ぶ強力なリッチに何があったのだ?わたしでさえ、これほどへりくだりはしない!
「その言葉を信じておるぞ」黒き者が応じた。「我はお前たちがかつて住んでいた世界を訪れた。瓦礫と化した歴史ある町。あの忌々しい<門>をくぐれなかった者たちの骨の山!なんと多くのものが滅びたことか。あれこそが「美」だ!多くの者がわたしの手から逃れたのが残念でならぬ」
「まったくもって、おっしゃられるとおりでございます!」
「では行け、カリバール!お前の世界に戻るのだ。三ヶ月後、<合>の訪れを待って、≪不浄なる吐息≫を解き放て。そうすれば、逃げ場なぞどこにもないと、すべての者が知ることであろう!そして、かつては生命に満ちていた肉体が腐り、ドロドロに溶け、汚汁と化したとき、すべての者が<虚無>とは何かを知ることになるのだ!」
謎の存在の言葉に我が主が歓声を上げるのを背中で聞きながら、わたしは安全と思われる場所まで退いた。
≪不浄なる吐息≫だと!そんな名前は一度も聞いたことがない。おそらくは異界の魔法なのだろう。この星に存在する生命を皆殺しにできるものであることだけは確かだ。もちろん、わたしも死ぬだろう!あの黒衣の巨人のような狂気の存在をカリバール様がなぜ崇めているのかはわからないが、もはやそんなことはどうでもいい。カリバール様の、いや、カリバール様と黒き者の企てを阻止しなければ!
どうしてかわからないが、後をつけてきたことがカリバール様に知られてしまった。この数日間、わたしはカリバール様に追われつづけている。これまでのところは何とか逃れられたが、早くネコルラムにつながっている<門>を見つけないと、この異界に生命力を吸い取られ、「生きている」半身が力尽きてしまう。
思案の末にたどりついた結論も、わたしの心をかき乱していた。わたしはカリバール様をこの手で殺さなければならないのだ。たとえ≪不浄なる吐息≫の解放を食い止めたとしても、カリバール様はあの謎の存在に仕えることをやめようとしないだろう。そうである限り、この世界は常に危険にさらされつづけることになる。
だが、カリバール様を殺すと決意することと実際に殺すことの間には大きな隔たりがある。たとえ好機が訪れたとしても、わたしにカリバール様を殺せるだろうか?
現実の世界に戻れてなによりだ。
かつてのわたしは自分のことを<破壊>の道具だと思っていたが、それは間違いだった。必死に<死界>から逃げ出そうとしていたときは気づかなかったが、今ならわかる。<死界>こそが純粋なる<破壊>の力の具現化だ。万物には<破壊>の力と<創造>の力の両方が備わっている。それはわたしとて例外ではなかった。
わたしはマルドールを召喚した。姿を現したマルドールは心配そうな表情を浮かべていた。
「出陣しろ!」姿を現すや否や、わたしはマルドールに命令を下した。「必要なだけゴーストを連れて行け。任務遂行のためには、奴らの素早さが必要になるだろう。我が国の西の国境近くにリージャという町がある。この町を制圧して、わたしの到着を待て」
「ご主人様はどうなさるおつもりなのですか?」
「やめろ!二度とわたしを’ご主人様’などと呼ぶな!」
「はい」
「わたしはお前と一緒にいくわけにはいかん。わたしには先に片付けなければならない仕事がある。リージャで待て。だがその前に、カリバールとネコルラムにいる者は今やすべて我らの敵だとハドリンに伝えろ」
わたしはマルドールをその場に残してすぐさま兵舎に向かい、わたしのおかげで不死性を得たスケルトンとヴァンパイアで構成された小部隊を編成した。かつての我が主が、あの<門>を通って姿を現し、ネコルラムに存在する全戦力をわたしに差し向けるのではないかと思うと、恐ろしくてしかたがなかった。
マルドールでさえ、わたしの行動の真意をはかりかねていただろう。
わたしは生贄の檻を見張っていた番兵を殺し、おびえる子供たちを解き放ってやった。さらに、童話で出てくる不思議な笛吹きのように、子供たちをネコルラムから連れ出した。なぜこんな面倒なことを?アラーナならこれを「良い行い」とか言うのだろうか?それとも、かつての主人に対する最初の反逆行為でしかないのだろうか?
南へ向かい、次に西に向かう。それがわたしに残された唯一の道だった。とにかく、子供たちの小さな足が許す限りの速さで逃げなければ。それにしても、傍からはさぞかし珍妙に見えたことだろう。腹をすかせ、泣きわめき、恐怖におののく子供たちを、ネクロマンサーが引率しているとは!
戦うべき日は遠からず来る。だが、今日はまだ戦うべき日ではない。
ごくわずかな時間だったが、マルドールがわたしの前に姿を現した。リージャの町を完全に制圧して、わたしの到着を待っているとのことだった。マルドールは古い門に向かうようにと助言もしてくれた。隻腕のゾンビ、ハドリンが、忠実な悪鬼どもを従えて駐留しえちるらしい。
誰よりも先に、隻腕のゾンビ、ハドリンが門から出てきた。よほど嬉しいらしく、兵士をかきわけながら急いでやって来る。
「斥候がネコルラムから軍勢が出発するのを目撃いたしました。少し前のことです。リージャにお急ぎください、ご主人様!」
「二度とわたしを’ご主人様’などと呼ぶなと命じたはずだぞ」
「そうでした、ご...いえ、その」
「では’王’と呼べ。今回の一件が片付いたとき、わたしは再びネクロスの王座に座っているか、さもなければ死んでいるだろうからな!」
「それで、今すぐにお通りになられますか、我が王よ?」
リージャに着いたとき、わたしはマルドールが戦の準備に忙殺されているものと思っていた。だが、奴が進めているのは敵による包囲攻撃に対する防備の拡充だった。
「わたしが必要としているのは軍勢だ!カリバールを討つためには大軍団が必要なのだ」
「こちらから出向くより、奴に出向いてもらうほうが賢明では?」マルドールは野戦における我が軍の不利にだけ着目している。
「待っている余裕はないのだ、マルドール。早くカリバールを倒さねば大変なことになる。猶予は三ヶ月しかないのだ!」
「あのスラーゼがあなた様のために戦ってくれるかもしれないという噂があります。奴を味方につければ、一軍が手に入りますぞ」
「罠ではないか?そもそも、奴を牢につないだのはわたしなのだぞ?」
「おおせのとおりですが、悪鬼どもがカリバールを好いていなかったのも事実でございます。それに引き換えあなた様は、彼らの尊厳を勝ち得ていたではありませんか!」
「一か八かの賭けこそが今のわたしに必要なものというわけか。よし、スラーゼに会いたいと伝えよ」
扉の前にいる悪鬼は、ゴールドス・ハーフデッドなる者を待っているのだと語った。他の者は通せないそうだ。
ここがスラーゼの指定した会合場所だ。わたしはマルドールだけをともなってこの小さな建物に足を踏み入れた。罠が仕掛けられているかと思っていたのだが、中にはスラーゼと数人の護衛がいるだけだった。
「再会できて嬉しく思う」わたしは言った。
「お前と会うことに同意したのは、あの愚か者のリッチ、カリバールが危険な奴だからだ。奴は誰であろうと平気で裏切る。マルヴィッチしかり、お前しかりだ。どうやってわしがネコルラムの牢獄から出られたのか、不思議に思ったことはないか?」
「脱獄したのだと思っていたが?」
「違う。カリバールが解放したのだ。お前がマルヴィッチと取引しようとしたことを知ったあいつは、わしに一軍を与え、お前を殺して≪枯木の杖≫を持ち帰れと命じた。だが、わしはあれこれ命令するあいつのやり方が気に入らなかったので、軍勢を連れて逃げたというわけだ」
「君が恩人を平気で裏切るような人物で良かった」
「あんな奴は裏切られて当然だ。それに、ああいう奴に仕えていると、利用されるだけされた挙句、結局は殺されるのだ。あんなのが王では、ネクロスに未来はない」
「同感だ」
「そんなわけだから、わしの力が必要だというのなら、軍勢を貸してやろう。ただし、タダというわけにはいかん」
「代価は?」用心しながらわたしは尋ねた。
「領地だ!少なくとも四つの町とその周辺の土地、そして相応の称号が欲しい。スラーゼ公爵なんていい響きではないか」
スラーゼがいなければ、<合>の前にカリバールを倒すことは不可能だ。スラーゼに土地を与えることについて不安がないわけではないが、すべてはカリバールを倒してからだ。
「取引成立だ」
マルドールが放った密偵の報告によると、隻腕のゾンビ、ハドリンは、<ハドリン抵抗対>と共に討ち死にしたわけではなく、カリバールによって<死界>に幽閉され、永遠の苦しみを受けているらしい。
「永遠に苦しませたりするものか」わたしはマルドールに言った。
今のわたしには<死界>に行く力がある。カリバールもまさかわたしが<死界>に乗り込むとは思っていないだろう。
我が軍勢がネコルラムの黒い門をくぐると、人々は歓呼をもってわたしを出迎えた。まるで英雄の凱旋だ。
「ハーフデッド!ハーフデッド!」誰も彼もが絶叫している。
子供たちと生きて再会できた人間たちは、わたしを「子供たちの守り手」とか「父なるゴールドス」と呼んだ。子供たちは兵士たちと並んで行進していたが、親を見つけると、一人、また一人と群衆の中に消えていった。
子供たちを閉じ込めていた檻を破壊するように命じた後、わたしは攻城戦によって傷ついた町の修復にとりかかった。やらねばならない仕事は数多くあったが、これはわたしの町なのだ。今ならわかる。この町をカリバールに捧げたのは間違いだった。
わたしはゴールドス・ハーフデッド。ネクロスの王であり、これからも王でありつづけるつもりだ。
−−ラストナレーション−−
これまでわたしは、一つの世界が完全に滅亡することを容認してきた<黄金律>の意図を理解しようと悪戦苦闘してきた。この果てしなき闘争に勝利をおさめるのはどちらだ?<破壊>か?それとも<創造>か?だが、どちらか一方だけを全面的に信奉してはならないということだけは確信を持って言える。生き延びたいのであれば、両者の狭間でたくみに立ち回ることだ。
一方だけを信奉するのは狂信者の所業だ。
我はゴールドス・ハーフデッド。諸君の救い主なり。